「おもしろいこと?
ねぇなぁ…

癌なんだよ、癌。ふたつも。
震災後にさぁ…
それまでは何ともなかったんだよ
やっぱりストレスってやつは
身体に悪いんだなぁ…

食道がんを手術してさぁ
治ったと思ったら
今度は大腸がん

こうなるとさぁ
治ってもまた転移すっのかなぁって
思ってくるべ?

あーあのとき死んでれば良かったなぁ…
どうしてこんな目に遭うのかなぁ…
なーんにもやる気がしないわけよ
散歩も料理も洗濯も…
なーんもしたくないわけ

はぁー…生きてる価値、ねぇなぁ…
こんな金喰い虫、早く死んじまえばいいのになぁ…
どうしたら楽に死ねっかって
調べてるんだけど
そいなのは出て来ないんだねぇ。
いっそ母ちゃん(妻)が殺してくれねぇかなぁ…
でも母ちゃん犯罪者にするわけに行かねぇしなぁ

病気になってから
母ちゃんとはケンカばっかりだぁ…
仮面夫婦だなぁ…
夫婦の絆なんてガラス細工よ
すーぐ壊れるの

息子たちも仙台にいるべけど
さっぱ会いに来ねぇなぁ…
可哀想で見てられないから
会いに来ないんだとよ…

夜?
あぁ、眠れねぇなぁ…
あいづがまたひどい(しんどい)んだよなぁ
だいたいのパターンがな
夜中の2時に目覚めるんだでば
そっから眠れないのなぁ
そう、あいづはひどいんだよ

からころステーション?
あぁ、そいなのはいいから、俺は。
あー無料なの?
あーそう…
んーじゃあ、電話してみっかや…

こんなやづ、仮設あるって(歩いて)てもいねぇべ?
癌ふたつなんてさぁ…

あんだ、どこから来たの?
横浜?あー遠くから。
情けねぇなぁ…
遠くから来てくれた人ががんばってるのに、
俺は何やってるんだろうなぁ…

でもなぁ…
前向きになれねぇんだよなぁ…」

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ずーっと下を向きながら、
たまに冗談っぽい笑顔を見せながら、
辛い心のうちを語る彼。

私たちは「目の前の人に笑顔になって欲しい」と思うあまり、
つい
「生きてる価値ないなんて、そんなことないよ!」とか、
「そんなこと言わないで、元気出して!」とか、
「最近はがんも治る病気だよ!希望を持って!」とか、
「精神科に行って、睡眠薬もらったら?」とか、
無責任なことを言いたくなる。

そんな言葉をぜーんぶ飲み込んで、
「うんうん、そっかぁ…そうなんだぁ…」を繰り返す。
相手が今どんな気持ちでいるのか、
どんな感情が心の中で何が起こっているのか、
それを理解することに全神経を集中する。

無責任な助言や励ましは、
私の自己満足でしかない。
相手はそれらを求めていない。

ただただ聴く。受け止める。
寄り添う。労う。味方になる。
それが、実は一番難しい。

たっぷり一時間話した後、
少しだけ目線が上がって、
「前向きにがんばるよ」と言ってくれた。
私に気を遣ってくれたのかも知れない。

でも。
思いの丈を話せること。
誰かに聴いてもらえること。
一人じゃないって思えること。
それって、生きていく上で
とっても大事なことだよね。

私はそんな「隣人」でありたい。
そして、私と思いを同じくする人たちが
やりがいを持ってうまく活動できるようサポートしたい。

それが今、私が生きている意味かなって思う。
今夜、彼が少しでもよく眠れるといいな。

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